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Visual 生きてます32

★誰か育まん沈丁花の香

JINTYOUGE's flower  長田は沈丁花の花の香りでいっぱいだ。
 歩いていても、自転車で走っていても、すぐその香りに出会うことができる。でも、なぜか花の姿が見えないことがある。たしかに、まるですぐそこに咲いているかのように香だけはするのだけど。
 長田には、大きな家の庭の立派な沈丁花があるわけではない。この写真のように、小さな鉢やプラスティックのバケツに植えられた沈丁花が主役だ。軒先のわずかな空間に老人たちは、所狭しと鉢をならべ草木を育てている。一本、一本は決して大きくないがそこここでそうして育てられた沈丁花は、互いの香りを風に乗せ、町を香りで包むのだ。

 香りの元を探すのは愚かなことかも知れない。
様々な人々が住むことこそ、この町の活力なのと同じように、風にのり、溶け合ったからこそ、こんなにも、沈丁花の香りもふくよかなのだ。


★地価は下がり、家は建たず、家賃は上がる

Nagata's town 
'96.3.31

 今回、各地の地価が発表されたが、神戸の被災地、とくに長田では軒並み地価が下がっている。再開発指定になっていると5年、もしくはそれ以上、恒久的な建築ができないことに最大の要因があると思う。
 だから住宅はなかなか建たない。土地を持っていた人もなくなく手放して離れていく人も多い。土地は、神戸市が買ってくれる。
 住宅はないので、家賃は上がる。
 ますます、人々はここで暮しにくくなっていく。

 日本が原発を輸出しようとしている軍事政権下のインドネシアから抗議に訪れたミレさんは、日本のことを「王様がいる国にしては民主的ですね」と語った。しかし、ほんとうにそうなのだろうか。


★麹

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 以前、JR長田駅の南側にある仮設店舗街パラールに味噌屋さんが開店したことを書いた。どうして、特別にその味噌屋さんのことを書いたかというと、毎年、私たちは、そこで麹(こうじ)を買って、味噌を作っていたのだ。もう、5年以上味噌を作り続けてきた。
 その味噌を友人にあげたりすると、そこのおじいさんが、私の味噌で作った味噌汁を一口飲んで、「おっ、どうしたんだ、この味噌は!」というほどのデキだったのだ。(へへっ、手前味噌ですいません(^o^))
 ところが昨年は、さていよいよ味噌を作る季節かな、という時に地震があったので、とうてい作ることはできなかった。だから秋には味噌の切れてしまって、いよいよ今年こそは作らなきゃ、と思っていたのだ。

 その味噌屋さんに麹を注文にいった。が、店の夫婦は、「麹菌がないんです。」という。「麹菌が焼けてしまってないんです。」という。
 それ以上は聞けなかったが、その味噌屋さんで代々育んできた麹菌は、大正筋の町並みと共に焼けてしまったのだ。おそらく、店が焼けたことと同じくらい、あの味噌屋さんにとっては麹菌が焼けたことは、重大なことだったのではないか。

 味噌は麹で決まる。
私は、自分で味噌を作ったと思ってきたが、実はあの味噌屋さんの麹のおかげで、味噌を作らせてもらってきただけなのかも知れない。
私の作った味噌だ、と自慢してきた私は、なんと傲慢だったのだろう。
 今年も、私は味噌を作れない。



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